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YKK AP技術館

YKK AP 技術館
YKK グループの国内での主要な生産拠点は富山県黒部市にある。
YKK AP 株式会社は、同社創立30周年を記念して、黒部における中枢機能を収容するための事務所(YKK3 0ビル)の整備に合わせて、建材事業の歴史を広く説明することを目的とした施設を企画した。設計は、アプルデザインワークショップに委託され、同工場内で鉄骨造の一番古い(1959年竣工)SRC造の工場建屋の改修によって整備され、2024年竣工し、「YKK AP 技術館」と命名された。
北側から見た鳥瞰写真

工場を開く
YKKグループを構成する主要企業であるYKK株式会社とYKKAP株式会社は、それぞれの製造工場群と管理部門を黒部市に置き、東京の本社と二極体制をとっている。黒部工場では、あいの風とやま鉄道の路線に沿う工場敷地の西辺を、生産領域から区画して、そこに郷土の森を再生し(YKKセンターパーク)、そこに両社の事務所を置き、随所に芝生の園地を配して広く一般に開放し、同時に、グループ企業の歴史と関連する技術史を展示する施設を、関連する古い工場のリノベーションで整備している。最初は「YKK丸屋根展示館」(2008年竣工)で、これは1958年竣工のRCの工場が元にある。この度竣工した「YKKAP技術館」は1959年竣工の鉄骨造である。これらによって、YKKセンターパークは地域の緑のインフラとなり、同時に文化インフラとしても充実を果たしている。また、ストック型社会に向けた先導的な挑戦の次戦の場として、ユニークな存在となっている。
それぞれの展示施設では、持続的な成長を支えてきた先人の努力と、それぞれの時代に多様な技術が育まれた背景やモノづくり技術の挑戦を立体的に示し、今後の新たな挑戦を示すことで会社に埋め込まれたDNAを次世代に伝承することを目的としている。

航空写真


東(正面入り口)側外観。 大屋根の一部を切り欠いて光庭を設けた様子が伺える。展示空間への自然採光を抑制するために、東西立面全面に穿たれていた窓の大半を塞いだ。その結果、壁状の撥型の列柱が際立った。 屋根面は既存折板のうえに断熱を施した上で新しい折板で覆い(カバー工法)、外壁は全面的にポリスチレンフォームを使った外断熱工法を採用して、内壁や野地板の天井の旧状を保存している。


工場時代の主入り口を引き継いで本館の入り口とし、大型バスの乗降にも雨がかからないようにアルミ押し出し型材で覆った大型のキャノピーを付加した。


1階入り口ホールの内壁を見る. 壁面に残る操業時の配管や器具類、標語などを極力残すために、外壁の断熱は外側に施した。開口部にはスチールバーにパテで単層ガラスを固定する鋼製建具が使われていたが東西面に使われていたが腐朽が激しく、健全なものを選び、開口部の歴史を示すために細いスチールバー材に複層ガラスを固定することで断熱化をはかった。


1階から北側大階段をみる。 大屋根に覆われた大空間に挿入したRC造のヴォリュームをRC骨材洗い出し仕上げとした。トラス梁がもつ繊細なスケール感を引き立てるように、それに覆われる新設のヴォリュームに、あたかも大地が盛り上がったかのような幻想を与えることで、新旧の存在を際立たせることを意図している。 展示照明の設置のために、屋根トラスから離して、ケーブルを介して新設の照明棚を吊るしている。これに限らず、可能な限り、元の要素と新たな要素を分離して両者を区別できるように扱うべきという「保存と修復のためのベネチア憲章」の精神に則ってデザインを進めた

1FL+2.66mレベルから大階段をみる。 階高4mを三分割して1.33mごとに床を設けて、多様なちいさな場所を作りだして、さまざまなイベントや展示物の拡大などに対応できるようにしている。 屋根梁のトラス部材に耐震補強を実施した。塗色は、往時の若草色を元に、経年変化で退色した野地板と不調和にならないように、明度を調整した。


2階ギャラリー通路から光庭越しに北側の展示室をみる。
保存する価値
この工場建屋の構造的特徴で見応えがあるのは、鉄骨トラスで組まれた切り妻
型の屋根架構(スパン 45m)にある。時は鋼材が高価だったので、部材の量を減らすために、壁は鉄筋鉄骨造として小屋組を小部材を鋲で組み立てるトラス梁としている(この工場の前年に竣工した東京タワーでも鋲が使われている)。
切り妻が採用されているのは、換気や採光を得るために合掌を組んで天井を高くしていることにある。近年、工場建築では、フルウェブの鉄骨梁をかけ空調を行うことが標準になり、陸屋根が一般的である。ここに見られるような架構が急速に姿を消しているなか、保存的活用に値する貴重な産業遺構と言って良いだろう。
工場敷地内には、その後同様の方式の建屋が多数造られたが、その中でこの工場が選ばれたのは、ファスナー製造からアルミ建材に業域を拡大したきっかけとなった最初の押出機のために造られた工場だからである。




光庭の二面のガラス面と、北側のガラス面、既存の腰屋根、そして新設の排煙窓からの自然光で館内の基礎的な光量が賄われ、人工光は主に展示照明である。通常の博物館では展示物のへの影響を鑑みて自然光の採光が行われない。本館では展示物が自然光に対する耐性が高いので快適案 な明るい展示室を実現した。 ガラスはLOWEペアガラス。 サッシは100%リサイクル材を採用








未来を見据えた改修
創建時からの履歴を見ると随時に改修が行われてきた。まず、屋根面に並んでいた換気用の越屋根は一箇所を除いて撤去されている。また、往時は北側は3スパン長かったが、その後切断されて妻面は ALCの壁で塞がれていた。いわゆる文化財ではないこともあり、遡及的に復元するのではなく、和の姿を起点にして、稼働時の工場の姿、雰囲気を最大限伝えることで、ここに関わった会社の人たちの記憶を留め、同時に機能と意匠の現代化を果たして未来に繋げることを目指した。
耐震補強は、原形の意匠的特徴を損ねないように、鉄骨トラス、SRC の壁面の補強を行い、居住性を高めるために壁、屋根、床面全面に断熱を施した。その際、稼働時の雰囲気が残る内部壁面に残る配管や電線管、標語を極力残すために外断熱を選んだ。そのために外部を特徴づける柱の見つけが断熱材分太くなったが、内部を優先した。


2点:創建時の写真.
左:北側外観、創建時は現状より北側に6スパン分長く、換気するため越屋根を全長にわたって設けていた(改修前には一箇所に縮小されていた).
右:鉄骨架構上棟時、家型の構面全体が鉄骨トラスで構成され柱部だけコンクリートを巻いて、鉄骨鉄筋コンクリート造としている。


2点:改修直前の外観。


1階「チャプター3」展示室をみる。 鉄筋コンクリート造の壁にも耐震不足があったので、東西面の壁(写真の右側)の一部に打ち増しをした。 写真左側のコンクリート打ち放し壁(仕上げはラワン合板遣り放し)は、防火区画壁で、屋根面とは耐火エキスパンションジョイントで縁を切っている。





南側展示室 円形階段を見る 展示の動線構成は、主入り口から入って、南側展示室を南に向かって進み、一番奥で円形階段を登って2階の「ギャラリー通路」を使って帰路につき、北側の展示室の大階段を降りるというものである。 円形階段は、長い展示体験の幕間のような位置にある。床も含めてすべての表面はRC骨材洗い出し仕上げとなっているが、階段側壁の手摺壁上端は研ぎ出しとしている。







光にわと地形的なRC構造物
用途転換後には防火区画が求められるので、基本は、RC造の構造物で、裏周り諸室を確保しつつ区画をしている。ただし、2階以上までRC壁を立ち上げて、空間的一体性を失わないように、南北の区画には、光にわ(外部)を設けて区画とした。展示品が自然光に対して耐性があるので、博物館では見られない自然光で明るい展示室を実現した。
一方、光にわを貫通して端から端まで串刺しにする動線となるRC造の「ギャラリー通路」を設けている。1階の一番奥まで展示を見終わった観覧者は最南端の円形階段を上って、ギャラリー通路から今見た展示を上から眺め、光にわを抜けた先に大階段が待ち受け、芝生広場に視線が誘導される劇的な空間体験を演出した。
鉄骨造の切り妻の建屋に挿入された形のRC造の構造物は、トラス梁の繊細な特徴を損ねないように、対極的な地形的な表現を追求し、表面をコンクリート洗い出しとした。


既存工場の配管などもどれを残すかを 現場で見極めていった。
*撮影;アプルデザインワークショップ

RC造の壁体の耐震補強は、壁厚を増すために打ちましをした。
*撮影;アプルデザインワークショップ

新規RC増築部分はすべてコンクリート洗い出しのため、洗い出し水の処理も考慮した工程計画とした。*撮影;アプルデザインワークショップ

鉄骨トラス骨組の補強も実施した。*撮影;アプルデザインワークショップ

天井が高いことは展示の可能性を拡大するが、暖房時の上下の温度差を生じて不快感やエネルギーの浪費を招く。そこで、大型の工場用送風ファンを3台設置した。発注者が運用しているCFDによる検証を実施し、台数と配置を決定した。
所在地 富山県黒部市吉田200
主要用途 事務所(資料館)
建主 YKK AP
設計
建築・監理 アプルデザインワークショップ 担当/大野秀敏 江口英樹 山本真也 芦原伸治
構造 小西建築構造設計 担当/小西泰孝 佐藤隼平
既存部耐震改修 日本設計 担当/龍井潤一
設備 黒部エムテック 担当/川田徹 髙橋浩幸
環境 スタジオノラ 担当/谷口景一朗
ランドスケープ オンサイト計画設計事務所 担当/三谷徹 戸田知佐 原行宏 前田智代 陸易平
展示 丹青社 担当/池田正樹 石河孝浩 山口徹也建石治弘 小松田麦子 矢部佑奈 平田研也 吉上由香
先人ホール モトラデザインスタジオ 担当/元良信彦 マルチ・エンターテイメント・ワークショップ 担当/森康浩
外構照明 EOS plus 担当/高橋翔
PM アプルデザインワークショップ 担当/大野秀敏 江口英樹 山本真也
施工
建築 第一建設 担当/山森俊範 松田洋介 田村祐也
設備 黒部エムテック 担当/川田徹 髙橋浩幸
展示 丹青社 担当/飯川隆弘 原田雄弘 鳥丸直起渡辺太郎 後藤孝幸 大桑周平 菅井賢治
植栽 黒部クリーンアンドグリーンサービス 担当/竹部馨 光田圭吾 松本隆寿 久保徹
規模
敷地面積 483,188.23m2
建築面積 3,609.23m2
延床面積 4,462.73m2 1階 3546.92m2/2階 915.81m2
建蔽率 46.1%(許容:60%)
容積率 64.84%(許容:200%)
階数 地上2階
寸法
最高高 15,600mm
軒高 83,900mm
階高 新規躯体:4,000mm
天井高 展示室:3,680mm
主なスパン 既存6,500×7,000mm
敷地条件
地域地区 都市計画区域内 区域区分非設定工業専用地域
道路幅員 東7.7m 西6.5m 南4.8m 北6.6m
駐車台数 20台
構造
主体構造 既存:柱+壁鉄骨鉄筋コンクリート造+屋根鉄骨造 新規:鉄筋コンクリート造
基礎 布基礎
設備
環境性能 BEI(省エネルギー性能指標) 0.56
BPI 0.64
BELS ☆5
空調設備
空調方式 パッケージ方式(個別空調方式)
熱源 電気
衛生設備
給水 水道直結直圧方式
給湯 局所式給湯方式
排水 分流式下水道方式
電気設備
受電方式 1回線受電方式(YKK黒部製造所構内変電設備より)
設備容量 500kVA
防災設備
消火 屋内外消火栓設備 消火器設備
排煙 自然排煙
その他 火災報知設備 誘導灯 非常用照明 非常放送設備
昇降機 三菱機械室レス乗用(車いす兼用)エレベータ(11人乗り)×1台
工程
設計期間 2021年4月~2023年10月
施工期間 2023年12月~2024年10月
外部仕上げ
既存屋根 既存塩化ビニル鋼板 t=1.8mm 瓦棒@約370mmの上,グラスウール t=100mm 16kg/m3+裏張り発泡ポリエチレン t=4mm(ソフトロンSK)+カラーガルバリウム鋼板 t=0.6mm (セキノ興産)
既存外壁 ひび割れエポキシ樹脂補修+塗布防水(バンデックス)の上,EPS断熱材 t=100mm+セメントフリーベースコート t=2.5mm+ロータサン 外断熱工法(stojapan)
新規開口部 アルミカーテンウォール(アルミリサイクル材100%)(YKK AP)
既存開口部 既存スチールサッシ残しの上,複層ガラス化
外構
園路:コンクリートショットブラスト アプローチ:花崗岩JB仕上げ 駐車場:芝ブロック舗装,アスファルト
内部仕上げ
+0mラウンジ~チャプター7
床 既存床の上,レベルコンクリート+防湿シート+断熱材 t=75mm+鉄筋コンクリート床 t=180mm 鉱物骨材配合散布型美装床仕上材(ABC商会:カラクリート)
壁 既存:既存金物+文字等残しの上,クリア塗装(ブルーグレー) 新規鉄筋コンクリート壁:鉄筋コンクリート洗い出し(リタイメイトCJ)の上,水性無機質系塗材(大日技研工業:ランデックスクリア)
天井 既存:硬質木片セメント板 t=25mm(既存利用) 既存鉄骨トラス梁 耐震補強の上,ウレタン塗装
シアター
床 タイルカーペット(展示工事)
壁 PB t=12.5+9.5mm+GW t=100mm+ウレタン塗装
天井 軽量鉄骨下地の上,Mバー@200mm ウレタン塗装 天井+梁:GWマット t=50mm 密度40
WC
床 既存床の上,レベルコンクリート+防湿シート+断熱材 t=75mm+鉄筋コンクリート床 t=180mm 鉱物骨材配合散布型美装床仕上材(ABC商会:カラクリート)
壁・天井 鉄筋コンクリート打ち放し t=250mmの上,ウレタン塗装
チャプター2
床 既存床の上,レベルコンクリート+防湿シート+断熱材 t=75mm+鉄筋コンクリート床 t=180mm 鉱物骨材配合散布型美装床仕上材(ABC商会:カラクリート)
壁 鉄筋コンクリート打ち放し普通型枠 t=250mm
天井 高圧木毛セメント板 t=15mm (竹村工業:TSボード)
主な使用機器
建築照明器具 遠藤照明
展示証明器具 DAIKO
空調設備 ダイキン
衛生機器 TOTO
利用案内
開館時間 9:00〜16:30(入場は16:00まで)
休館日 月,祝日(土日と重なる場合は開館)年末年始 お盆 GW
入館料 無料(予約なしの自由見学)
問合せ tel. 0765-54-8134
撮影:浜田昌樹 (kkpo)
























