top of page

東京大学柏キャンパス/数物連携宇宙研究機構棟

受賞:2011年建築学会賞(作品)(大野秀敏個人)、2012年BCS賞

05.jpg

IPMU とは何か?

日本の文部科学省は熾烈な国際的な研究競争を勝ち抜く為に、研究費を重点的に投入する「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI プログラム)」を立ち上げました。このプログラムは、高い研究水準と卓越した研究環境を提供することによって、世界中から研究者を引きつける" 世界に見える" 拠点となることが期待されます。公募により2007年は5カ所の研究拠点を選びました。その一つが、候補の建物である東大柏新キャンパスの東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU) 棟で、2009年12月に竣工しました。http://www.ipmu.jp/ja

IPMU の体制は非常にダイナミックで、長期間研究に従事する研究者から短期間滞在する研究者まで各国から参加しています。このようなダイナミックな組織の運営は「IPMU では研究目標を達成するために、それぞれの分野で世界をリーIPMU やホスト機関である東京大学の他の部門に所属する研究者だけでなく、他の機関に所属する研究者も含みます。

主任研究員は自分の研究に関して大きな権限を持っていて、研究遂行のために必要な研究者の採用を機構長に提案することができます。このような提案を採用するかどうかは、研究戦略に関する機構長の判断で決まります。」(同機構のサイトによる)。上記主任研究院の下に専任研究員23名、博士研究員43名を抱え、公用語は英語として運用されています。

設計体勢について

設計の依頼は、東大柏キャンパスに研究室をもつ候補者個人に直接、数物連携宇宙機構の建設検討委員会からありました。この依頼に応じて、設計体勢を組みました。候補者が東京大学から兼業許可を得ている共同事務所(株式会社アプルデザインワークショップ)への発注は制度上できないこともあり、基本構想と基本設計相当の作業(概算見積もり作業を含まない)のために、候補者の推薦する設計事務所を中心に設計チームを組織して進めました(随意契約)。 実施設計では、大学本部の施設掛によって、基本設計を条件とした実施設計業務の公募プロポーザル方式で設計事務所を選定し、発注されました。工事監理は、外部委託がおこなわれず大学本部の施設掛による監理になりましたので、実施設計を担当した設計事務所に設計意図伝達業務を数物連携宇宙機構から発注(随意契約)していただき、設計の一貫性確保ができる体勢を作りました。家具選定および製作家具設計業務についても、数物連携宇宙機構から基本設計に関わった設計事務所に発注(随意契約)をしていただきました。

以上のように、設計体勢は複雑になりましたが、候補者は最初から最後まで一貫してプラニング、デザインに関わり全体の方向性を定め個別のデザインの決定を行ないました。

ipumu_8.JPG

東大柏キャンパスの研究棟群

ipumu_1.png

図 東大柏キャンパス配置図と柏の葉地区の軸線

キャンパス内外のアーバンコンテクスト
プロムナードに沿って並ぶキャンパスの街並柏キャンパスは、東西に伸びる長さ600m、幅30m のプロムナード(帯状広場)を基軸として、それに平行に配された土地利用ゾーニングで空間構成が規定されています。帯状広場は石材、コンクリート平板等で舗装され、中央に二列のケヤキ並木が配置されています。帯状広場の北側には、広場に正面を向けて各部局の研究棟が横一例に並んでいます。このように、極めて規則性の強い配置形式をもっています。この建物も、その居並ぶ建物の一つとして扱われるべきだと考えました。既に建つ両側の建物は、キャンパス計画室の主導のもと、広場に面して二層分のコロネードを持ち、打ち放しコンクリートを主な仕上げ材料として、軒高を大凡30m としています。このデザインは必ずしも明示的に規則として規定されているわけではありませんが、この建物でもこのデザイン原理を継承すべきだと考えました。ただし、要求された床面積とプログラムから30m の高さに到達することは困難でした。

ipumu_10.jpg

東大柏キャンパスのある柏の葉地域の幹線道 路から IPMU のパーゴラを見る

地区の幹線道路の軸線上にある特別な建物
この建物は、東大キャンパスが立地する柏の葉地区のアーバンデザイン上の特別な位置にあります。柏の葉地区の中心には千葉県立柏の葉公園があり、その東西にケヤキ並木で縁取られた立派な道路があります。特に東側の道路は両側に国の機関の施設を従え、いわば都市軸的位置にあります。北端は東大キャンパスに突き当たりT 字路を形成し、その軸上にIPMU の建物があります。従って、IPMU の建物には、この軸線をうけるランドマーク的性格が求められるとかんがえました。屋上の巨大パーゴラは建物の中からすれば、アンフィシアターの舞台のプロセニアムアーチですが、アーバンデザイン上は都市軸を受け止める「(小さな)凱旋門」と言えます。

01.jpg

帯状広場に沿って設置されたコロネードと、揃えられたファサード

ipumu_5.png
ipumu_9.jpg

螺旋構成を示すスケッチ

アカデミアの原型
知的創造の場であるアカデミアの空間
IPMU の建設委員会からの最初の要望は、研究個室が共用広間を円形に囲むというダイアグラムで示されました。理論系の学者の集まりであるこの機構では、常に黒板の前で学者どうしが議論をする日常生活が紹介されました。また、機構では、研究者の相互のコミュニケーションのために、毎日3時にお茶の時間を設けており、その場所が広間であるということでした。


多くの大学では、実験室や教室は作られますが、議論することを目的とする広間が作られることは皆無です。最近は学生がくつろぐ厚生施設に予算が付く様になりましたが、黒板を何枚も置いて議論する為に広間を作ろうという発想はなかなか出てきませんし、そもそも大学教員にそのような習慣があるのかどうか候補者の周辺では疑問です。その意味で、示されたプログラムは例外的でありながらも、実は、学級の場(古代ギリシャに倣えばアカデミアと呼んでも良いかも知れません)の本質を示していると感じました。

 

設計案は、このような共用広間(これは、寄付者の名前が冠され実現案では藤原ピアッツアと名付けられました)を中心に据え、その周りに研究個室を80室弱3層に渡って取り囲む形式としました。共用広間の他にも、様々な議論をする空間の要望がありました。一階のセミナー室2室とレクチャー用の講堂、4、5階の研究者階に設けられた各階の広間(実現案での「バルコニー」)などです。これに加えて、設計者の提案で、広間に続く外部テラス(最終案では「ロジア」)、屋上の野外劇場(「アンフィシアター」)が計画されました。

 

学会は夏休みに開催されることが多いので、アンフィシアターでは印象的な夕べの学術集会ができることを期待しました。舞台に立てられたガラススクリーンは、その表面に映写スクリーンを設置する為の防風機能を持っています。つまり、この建物には、二室ある小さな実験室と事務室を別にすると、研究個室と人が集まる空間の二種類だけでできた建物といえます。

 


IPMU の建設委員会が設計者に示した空間図式のもう一つの意味は、共用広間に面する全ての部屋は等価にしたいということだと理解しました。それは、知の探求を前に全ての研究者は平等だということの言い換えでもあります。しかし、3層に渡るとなるとどうしても階の違いによって相互に分断されます。そこで、ここでは、個室の列を螺旋状に配列することで、全ての研究個室を連続した一繋がりのひも状の空間に変えました。

14.jpg

研究活動の中心的空間「ピアッツァ藤原(寄付者の名前を冠する)」。

36.jpg

ティータイムは、研究者達が白板や黒板を囲んで議論の時間でもある

ipumu_3.png
ipumu_2.png

心地よい室内空間
理論研究を中心とする研究者達は、この建物で長い時間をすごしますから、空間の心地良さには特段の注意を払いました。研究者達が集まり研究の議論をする中心の共用広間(藤原ピアッツァ)は、街角の広場のような空間として造形しています。具体的には、階段状坂道が広場の一辺を占め、様々な場所に様々な開口を開けることで多様な自然光が降り注ぎ、広場を囲む四つの壁面は、各階の廊下の腰壁として扱うのではなく、窓が穿たれた壁面として扱いました。空調のエネルギー節減と快適性から、居住域空調の考え方を取り入れました。共用広間(藤原ピアッツア)の4隅を占める巨大家具に床下吹き出し型の空調機を組み込んでいます。遮音、消音には最大限の注意を払い、家具と空調システムを一体的に設計することで(データ頁に詳細図掲載)、コンパクト性と静寂性を実現しています 。また、この家具には、着脱式の可動黒板/白板を組み込んであり、研究者達の集まりの焦点ともなっています。
一方研究個室は、効率的な近代的オフィスの一室というよりは、瞑想の空間として僧院の僧坊のように比較的閉鎖的に造形しました。内装には、木製の壁(一面)、打ち放しの天井、木製の家具、木製のブラインド、縦長の窓などを使っています。ドアに組み込んだ換気窓、深い庇と腰部の片引きのサッシなどによって、日本の気候帯で年間を通して快適に過ごせ、特に中間期は空調に頼らなくても快適な個室の実現を図っています。

ipumu_6.png

市松模様の構造壁
正方形の平面プランの外周部に研究個室を配したので、研究個室の列や廊下の列などによって、入れ子状の空間構成ができあがります。そこで、外壁とともに個室と廊下の境の壁を耐震壁とする計画を立てました。靭性にはあまり期待せず、耐震壁を主要耐震要素とする強度型の計画としました。二枚の壁には窓や部屋の入り口あがりますが、上下階でずらせることで、市松パターンを作り出すことで、鉛直荷重、水平荷重に対する柱梁の曲げモーメントを小さくし、柱梁とも40 センチメートル程度の小断面にして研究個室の住宅的なスケールに馴染ませました。結果として、柱梁構造と開口部の周囲は細い柱型で補剛した壁構造の中間的な姿になっています。それが廊下に独特なリズムを作り出しています。床構造に関しては、大スパン部にボイドスラブを使いました。

08.jpg
ipumu_4.png

帯状広場に沿って設置されたコロネード

ipumu_7.png

設計概要
建物概要     所在地千葉県柏市柏の葉5 丁目1-5
建築主      国立大学法人本部統括長(施設・資産系)平井明成
主要用途     大学
設計期間           基本構想+基本設計/2007年9月~2008年2月 基本設計の概算見積+実施設計/2008年4月~2008年11月
東京大学数物連携宇宙研究機構棟設計監理クレジット
基本構想+基本設計1
デザイン総括      大野秀敏
建築          クハラ・アーキテクツ + 樫本恒平事務所/久原 裕 樫本恒平
構造          桐野建築構造設計/桐野康則
設備          スタジオランプ一級建築士事務所/後藤智久
基本設計2(基本設計1の概算見積)+実施設計
デザイン総括      大野秀敏
東京大学本部(施設・資産系)
            小川友明、佐藤嘉昭(建築)/鈴木道弘、遠藤賛(機械設 備)/尾崎之典、吉川利弘(電気)
意匠 ( 株) 渡辺佐文建築設計事務所/池田匠, 北嶋信義、佐藤和隆
( 株) 青島裕之建築設計室/青島裕之, 小林聡
構造 オーノJAPAN /大野博史, 大川誠治
設備 ( 株) システムプランニングコーポレーション/ ( 空調給排水衛生) 鎌形亜土, 佐藤英明
   ( 電気) 鈴木正彦
設計監理:監理
デザイン総括  大野秀敏
東京大学本部
(施設・資産系)/小川友明、佐藤嘉昭(建築)/鈴木道弘、遠藤賛(機械設 備)/
尾崎之典、吉川利弘(電気)
監理協力 ( 株) 青島裕之建築設計室/青島裕之, 小林聡, 李致雨
家具・備品設計、選定
デザイン総括 大野秀敏
クハラ・アーキテクツ/久原裕
ライティングデザイン(屋上ライトアップ)
    ( 株)I.C.O.N /石井リーサ明里
施工    建築佐藤・浅川特定建設工事共同企業体
機械設備    三機工業株式会社
電気設備    小峰電業株式会社
昇降機    三菱電機株式会社
外構    佐藤・浅川特定建設工事共同企業体
工事期間    2009 年2 月~2009 年12 月
面積
敷地面積     237452.39 ㎡
建築面積     1589.04 ㎡ ( 申請部分)42441.36 ㎡ ( 申請以外の部分)
延床面積     5974.36 ㎡ ( 申請部分)138462.4 ㎡ ( 申請以外の部分)
建蔽率      18.54%
容積率      60.83%
構造・規模    鉄筋コンクリート造 地上6 階    
最高高さ     26.4m
階高       1F:5.0m、2F:4.2m、3F:3.8m、4F:3.8m、5F:4.0m、6F:3.75m"
主な設備空調方式 空冷ヒートポンプマルチエアコンによる個別空調方式
衛生設備給水   高架水槽による重力式(5階のみ加圧給水ユニットによる圧送方式)
中水       高架水槽による重力式(5階のみ加圧給水ユニットによる圧送方式)
給湯       電気温水器・エコキュート温水器による個別給湯方式 
排水       汚水・雑排水合流方式
消火       屋内消火栓
電気設備     開放形受変電設備

外部仕上
屋根       コンクリート金こて押えの上、改質アスファルト断熱防水( 硬質ウレタンフォームt=35) の上押エ
コンクリートt=120
軒天井      コンクリート打放しの上 アクリルシリコン樹脂クリアー3回塗り
外壁       鉄筋コンクリート打放しの上 アクリルシリコン樹脂クリアー3回塗り50 角モザイクタイル貼、パティオ磁器質タイル貼り(特注柄)

内部仕上
4,5F バルコニー 
床        タイルカーペット、C壁PB t=12.5+9.5 の上 EP塗装
天井       ロックウール化粧吸音板、ジョイスト梁:コンクリート打放し+ シリコン樹脂クリア
3、4、5F 研究室
床        タイルカーペット
壁        PB t=12.5+9.5 の上 EP塗装 一部シナ合板CL 目透し貼
天井       コンクリート打放し+ シリコン樹脂クリア、下がり部:ロックウール化粧吸音板"
3F 藤原ピアッツァ 
床        フリーアクセスフロア(H=300)+ タイルカーペット
スペースA    壁コンクリート補修の上EP塗装
天井       斜面:不燃木質パネル、一般部:グラスウールボード
2F 図書室
床        フローリングボードt=12
壁        PB t=12.5+9.5 の上 EP塗装、一部ナラ練付合板貼(不燃)
天井       ロックウール化粧吸音板、一部ナラ練付合板貼(不燃)
1F 大講堂   
床        長尺カーペット 一部フローリング
壁        コンクリート打放し+ シリコン樹脂クリア 一部有孔スチールパネル貼
天井       グラスウールボード 一部ロックウール化粧吸音板
1F エントランスホール
床        御影石(J&B)
壁        コンクリート打放し+ シリコン樹脂クリア
天井       ロックウール化粧吸音板

bottom of page