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門司税関改修
1999年ベルカ賞

この建物はかつての旧門司税関の庁舎である。1909年(明治42年)門司港が一般開港に指定され、税関が設けられたので、1912年(明治45年)妻木頼黄の指導のもとに建築技師咲寿栄一により設計され、昭和初期まで税関庁舎として使用された。その後、この建物は民間に払い下げられ事務所として利用された後、倉庫に転用された。その際に、海側の両翼部が取り壊され、窓はコンクリートブロックで塞がれ、2階の床組みから内装まですべて撤去され、長らく荒廃した姿をさらしていた。


しかし残された御影石の装飾などを見れば、明治時代の赤煉瓦建築として貴重な遺構であるだけでなく、門司港地区の歴史的建造物群の中でも意匠的にも優れた建物であることは十分にうかがい知ることができた。北九州市では、門司港港湾地域の活性化策として進めている門司レトロ地区を構成する施設として、この建物を活用するために取得。九州芸術工科大学片野博助教授を座長とする保存検討委員会に保存、修復方法を諮問し、両翼部の塔の復元を含む、復元・改修による動態保存の提言を受け、今回の改修工事(1992年〜1994年)となった。
構成アクソメ図
今回の保存・改修工事は、既存煉瓦躯体、瓦屋根の補修・復元工事と新たなデザインによる改修工事に大別できる。
補修・復元工事は、
①煉瓦躯体の補修、補強
②不同沈下対策
③建物外観の復元
である。①については控壁の新設、壁量不足を補うための煉瓦による壁厚の増し積み、大断面集成材による臥梁の追加などである。②は、主に松杭の柱頭の腐食と地盤の流出によるものなので、空隙部分にセメントベントナイトを注入している。③は、原則的には倉庫使用時以前、できれば創建当時の姿に戻すことであるが、竣工当時の写真の点数に限度もあり、十分考証ができなかったので、復元は最小限にとどめ、場所によっては倉庫使用時の改変も「時間の痕跡」として残した。そのひとつの例が、倉庫への物の出し入れのために大きく開けられた東西の大きな開口である。あえて復元をせはめた大開口としている。この考え方は、内部のインテリアについても同様で、復元は基本的には行わず。汚れた煉瓦をそのまま見せた。

新設した2階床構造支持材を見る。仕上げは集成材+OSCL。
一方、新たなデザインによる改修工事は、
・木造軸組みによる2階の新設
・集成材を使った小屋組みの新設
・入口キャノピーの新設
・護岸側にあった平家の付属屋(創建当時からのもの かどうかはわからない)の平面形
だけを暗示する外構の整備などである。

短手断面図

外壁。既存部の仕上げは、クリーニングの上浸透型吸水剤塗布。新設部は特注煉瓦化粧積みの上浸透型吸水防止剤塗布。


屋根は小屋組みが取り替えられており、屋根勾配も創建当時とは違っていたので、新規につくり直した。脆弱な煉瓦壁に不要な横荷重を加えないように、軽い木造とスティールロッドの複合梁を用い、小屋組みを内部空間に積極的に参加させることにした。計画段階では、完成後の使用形態が多目的観光施設というような漠たるものだったので、あまり空間を規定しすぎると将来の利用勝手を制限すると考えた。煉瓦壁によって囲われた空間は、それ以上に強い分節はしないことにした。しかしまったく何もしないで使用者に放り投げるようなことも選択肢から外した。大きすぎる自由はかえって取っかかりをなくすと考えたからである。むしろ使い方を喚起するような働きかけは必要であると考え、煉瓦の壁によって大きく囲われた空間の中に細いフレームを挿入し、それに格子組みのスクリーンを絡ませ、それぞれの空間に固有の性格を与えつつ相互に響き合う関係を目指した。煉瓦の壁の中での工事という性格も考慮して、このフレームの材料にも軽い木造(燃え代構造)を選択した。このフレームもやはり煉瓦壁体に力学的負荷をかけないよう、すべて自立している。そして集成材の角柱を壁際に立たせることにより。ふたつの時代の構造物を近接させて見せ、両者の間に強い緊張関係をつくり出した。

2階展望室入口からホールを見通す。2階床は新設した床支持構造により、煉瓦壁面に力学的負担を与えていない。壁面とはホールアンカーにより接続。


エントランスホールを見通す。床はPC板敷き込み浮き床。杉小幅板うずくり仕上げ。右手の壁面は杉突板+OSCL,ガラス目地。
この施設は、1994年秋の開業以来、さまざまな展覧会やコンサート、TV番組の収録などに年間を通して活用されている。レトロ地区の核施設として、市 民や旅行者に親しまれているのを見るのは設計者としてもうれしいことである。
内部壁面
門司税関改修
Renovation of former Moji Customs Office
Preserved exterior appearance and an inserted wooden floor and roof structure
受賞:1999年ベルカ賞
所在地:福岡県北九州市門司区東港町1-24
用途:休憩所展望台 ギャラリー
構造設計:TIS&PARTNERS
設備設計:新日本設備計画
家具デザイン:藤江和子アトリエ
施工:第1期工事-山田組、第2期工事-清水建設北九州事務所
構造規模:組積造地上2階、塔屋1階
敷地面積:1,476.46
建築面積:533.37
延べ床面積:897.90
竣工:1994.11
写真:新建築写真部、相原功
外部仕上げ
屋根:掛棧瓦葺(三州瓦) 一部銅板 0.3t平葺(アスファルトルーフィング1500)
外壁:レンガ化粧積(イギリス積)の上浸透型吸水防止剤塗布
復元部:特注塩焼きレンガ化粧積(腰壁) 特注レンガ化粧積
特注レンガ227mm×108mm×60mm(一般壁)
開口部:木製建具(ベイヒバ) スチールサッシュ












